小郡第一総合病院

院長雑談

病院と開業医の連携 

  医師不足により病院医療は崩壊寸前となっています。厚労省や行政、日本医師会等は多くのビジョンを掲げていますが、解決の兆しは見えてきません。医療崩壊は過疎地や医師不足が顕著な東北、北海道だけでなく、山口でも深刻な問題になっています。
 吉南医師会の先生方はご存知と思いますが、当院では過去2年の間に産婦人科の正常分娩をとり止め、循環器内科は常勤医による診療ができなくなりました。(循環器内科は6月1日から2名の常勤医が勤務しています。)これは常勤医師の開業に伴い、山口大学医学部関連医局から後任の医師が派遣されなかったことによるものです。産婦人科、小児科、麻酔科の医師不足は全国的な傾向であり、その原因は心身をすり減らすような日常診療・当直業務、クレーマー患者、医療訴訟の増加、過酷な労働の割には恵まれない労働条件等に起因するものです。
 一方、新医師臨床研修制度に端を発した地方での医師不足は、前述の3診療科に限ったことではありません。当院の循環器内科のように、病院の看板科であり、現代医療の基本診療科である内科でも医師不足は起こっています。しかも全国の医師数は漸増しているのに、医師不足が起きているのです。つまり、病院勤務医が偏在する一方、診療所の医師は増加しているのです。これは小松秀樹先生の著書「医療崩壊:立ち去り型サボタージュ」で指摘されていることですが、勤務医から開業医へ急激な方向転換が起こっているということです。厚生労働省の医師の需給に関する検討会報告書(2006年7月)によると、この傾向はますます顕著になり、約30年後には団塊世代の高齢化とともに入院需要は増加するが、外来患者の需要は増加しないと推測しています。つまり、現在の状態が続けば、勤務医不足はますます助長され、一方で開業医の供給過剰が起こってくることになります。そうなると、地域中核病院として医師会の先生方のバックアップは不可能になります。この対策として、医師数の増加策(医師養成数、女性医師の離職防止・復職支援、医師の勤務環境の改善)、コメディカルとの業務分担と協働(医療事務、助産師、看護師、薬剤師)など多くの策が講じられていますが、どの策も効果がでるのは遠い先の話ではないでしょうか。
 本会報の読者の大半は、開業医の先生方ですので、診療所の医師に関連した解決可能策について私見を述べさせていただきます。私はこのまま医療崩壊が続けば、病院が崩壊するだけでなく、診療所も崩壊の危機に瀕するのではないかと考えています。開業医志向がこのまま続けば、外来患者の奪い合いが起こり、経営的に厳しくなる診療所が出てくるでしょう。主に開業医の団体である日本医師会は政治的発言力を増すために、医師会員数増加を至上命題とし、勤務医、研修医の獲得に必死になっています。この問題は医師会の問題ですのであまり触れませんが、現在の医師会は主に開業医の代表であり、勤務医を含めた意見代弁者になっていないことが問題です。代議員に占める勤務医の割合を変更し、勤務医の意思が反映されるような団体にならない限り、勤務医は日本医師会には進んで加入しないでしょう。地方の医師会、開業医の先生方が現在の医療崩壊を食い止めるため、勤務医を開業させないようなことをお考え頂きたいと存じます。そのためには、勤務医が嫌になって辞めないように、開業医の先生にも仕事を分担して頂くこと、つまり、開業医の先生方の一次救急医療と入院患者診療への参加です。
 救急医療の大きな問題は、二次救急病院に一次救急の患者が押し寄せ、勤務医を疲労困憊させているだけでなく、救急・救命医療の現場をパニックに陥れていることです。ある吉南医師会の会員の先生から、一次救急当番でも自分の専門でなかったら診察を断って、小郡第一病院へ行くよう言っても良いでしょうかと相談されたことがあります。一部の先生のお考えかとは存じますが、このような対応をされると二次救急当番日に当院を訪れる一次救急の患者さんは後を絶たないでしょう。今回の診療報酬の改定で診療所の夜間・救急医療加算が設けられましたが、この程度の診療報酬では積極的に救急医療に参画できないとの医師会の先生の意見をお聞きしました。しかし、開業医の損得のみを主張して、勤務医に加重労働を強いれば、やがて、自分の身に降りかかることになるのではないでしょうか。欧米諸国では専門医は開業しても、病院と契約して自分の入院患者を診療しています。
 厚生労働省の統計では、病院病床数あたりの医師数も諸外国と比べて大差がないような報告があり、日本での病院勤務医は充足しているとのデータもあります。欧米諸国では、いわゆる日本の開業医である先生も含めて、大半の医師が入院患者の診療に参加しているのに、日本では半数近くの開業医は、入院患者の診療はしていません。単純に計算しても、医師一人あたりの病床数は同じでも、勤務医に係る労働は諸外国の2倍になっているのです。私の外国の友人の医師達は、病院研修医の時、死に物狂いで働いていました。クリニック(開業)を持ち、有名な病院の契約医師となれば、手術や検査で高額な報酬がもらえるからです。医学部教授もクリニックを持ち、自分の患者の手術・診療を行い、年収1億円以上の高給取りです。反対に、開業しても、病院で手術などをしないと、報酬は家庭医にランクされ医師としては低いものになります。つまり、外国の診療報酬体系を日本に当てはめると、日本の開業医はかなりの所得減になります。さらに、当院で開業した医師や大学の後輩も専門医として大変優秀な医師がたくさんいます。折角、長い間苦労して取得した技術を開業により発揮できなくなるのは、貴重な資源の損失ではないかと思います。開業医の先生との連携で必要なのは、患者の紹介・逆紹介だけでなく、開業医の先生方が我々の病院を利用して、入院しても自分の患者の診療を続けることです。そうすれば、勤務医の過重労働も軽減され、開業志向も少なくなるでしょう。
 以上、田辺会長の要請で医師不足の対応について愚見を述べました。今のままでは、医療崩壊を防ぐことはできません。私達、勤務医は私も含めサボタージュも可能でが、やがて、開業という選択もなくなるかもしれません。このようなことを念頭に入れて、医療再生のシナリオを考え、実行に移すことが肝要と考えています。
(吉南医師会報 第145号 勤務医コラムより) 

病院長 土井 一輝
(最終更新日:2008.9.30)

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