リンパ浮腫(りんぱふしゅ)

リンパ浮腫とは

 リンパ浮腫とは手足がむくむ病気のひとつです。その原因は、感染や、生まれつきのリンパ管の異常によるものもあります。しかし、その多くは癌の手術でリンパ液の流れが悪くなることにより発生する閉塞性リンパ浮腫で、手では乳癌、足では子宮癌の術後に発生することがほとんどです。 

乳癌の術後には約10%、子宮癌の術後には約25%発生するとされ、日本国内だけでも年間約1万人が発生していると推測されています。

症状

癌の術後、数年を経過してから徐々に手足がむくんできます。むくみの多くは、手足の付け根から始まることが多く、患者さん自身が自覚しないこともあります。数年の間で、このむくみが徐々に手足の先にまで広がっていくと、日常生活での差し障りが起こります。特に、足では歩きにくさやだるさ、靴のサイズが左右で合わないなどの症状の他に、蜂窩織炎という足全体の化膿が起こることがあります。 

蜂窩織炎になると高い発熱が起こり、抗生剤の点滴が必要になります。さらに、症状が進むと皮膚が硬く厚くなり、象皮症と呼ばれる状態になります。

診断

リンパ浮腫の診断自体は、むずかしいものではありません。癌の手術を受けたことがある患者さんに手足のむくみが起これば、リンパ浮腫を疑ってみる必要があります。診断を確かなものにするためには、リンパ液の流れが障害されていることを確認しますが、最近開発されたICG蛍光リンパ管造影という方法が非常に有用です。 

これは、ICGというリンパ管を染めることができる造影剤を手足に数カ所注射し、特殊な赤外線カメラを用いてリンパ管の流れを直接見ることができる装置です。ICGの注射の前には局所麻酔を行なうので痛みもほとんどなく、患者さん自身の負担は大きなものではありません。

ICG蛍光リンパ管造影により、リンパ浮腫の診断のみではなく、その進行の程度まで容易に分かるようになりました。

治療

リンパ浮腫は難治性であり、現在においても予防や完全に治す方法はありません。したがって、治療の目的は、リンパ浮腫によるむくみを少しでも改善させることが中心になります。以前より行なわれてきた治療は、手足の挙上と体重制限などの生活指導や、包帯やストッキングによる圧迫とマッサージによるリンパ液のドレナージを含めた複合的治療と呼ばれるものです。 

複合的治療は、欧米では確立された方法とされており、最近では日本でも多くの病院で取り入れられつつあります。リンパ浮腫の治療の中心は複合的理学療法であり、一定の効果を持った有用な方法として認められていますが、患者さんは生涯にわたり治療を継続していかなければなりません。そこで、リンパ浮腫を手術により治す試みが行なわれてきました。この中でも、リンパ浮腫に対して効果があるとされているのが、リンパ管静脈吻合術と呼ばれる手術です。

リンパ管静脈吻合術

手足のリンパ液はリンパ管を流れて、最後には心臓に戻ります。手足の付け根やお腹の中でリンパ液の流れが悪くなっているために、リンパ浮腫が起こっています。よって、手足にたまったリンパ液をリンパ管ではなく血管(静脈)に流して心臓に戻すのが、この手術の目的です。 

すなわち、リンパ管と静脈の間に人工的にバイパスを作成するということです。

マイクロサージャリーと呼ばれる技術により、手足のリンパ管と静脈を顕微鏡を用いてつなぎます。

しかし、リンパ管は太さが0.5mm前後と非常に細く手術自体は非常に難しいとされています。この手術は1970年ごろに日本で開発されましたが、その効果は決して良いとはいえず広く普及することはありませんでした。 

なぜなら、その当時の手術の器械では、このような細いリンパ管と静脈をつなぐのは困難であったからです。しかし、1990年代後半から、高倍率の顕微鏡や極細の縫合用のナイロン糸の開発により、このような細いリンパ管や血管でもつなぐことができるようになり、スーパーマイクロサージャリーと呼ばれています。リンパ管静脈吻合術では、手足に数カ所の3cm前後の皮膚切開を加えて、可能な限り多くのリンパ管と静脈を吻合します。 

非常に細かい作業が必要であり長時間の手術になりますが、出血もほとんどなく患者さんの負担はそれほど大きなものではありません。このスーパーマイクロサージャリーによるリンパ管静脈吻合術により、今まででは考えられなかったようなリンパ浮腫の治療効果が得られてきており、日本を中心に世界にこの手術が広がりつつあります。

当院における治療の現状

当院の整形外科の特色のひとつであるマイクロサージャリーによる手術は、県内はもとより国際的にも高い知名度があります。特に、手の麻痺の機能再建やスーパーマイクロサージャリーの技術を用いた指先の切断の再接合術には多くの経験があり、全国でもトップレベルの治療成績を得ています。このような豊富なマイクロサージャリーの手術の経験を生かして、最近ではリンパ浮腫の手術にも取り組んでいます。

右下肢のリンパ浮腫

左:術前               右:術後1年


しかし、リンパ浮腫の治療は、手術のみではなく複合的治療も大切です。このためには、ナース、リハビリ療法士を含めたチーム医療が必須です。当院では、リンパ浮腫専門ナース、リハビリ療法士の養成を行ない、専門的な複合的治療を行なえるようにしております。 

また、ハード面では、世界最高の性能を持つ三鷹光器社製の手術用顕微鏡と、ICG蛍光リンパ管造影のための赤外線カメラを導入、さらにリンパ浮腫の患者さん専用の病室とリンパドレナージ室を2階病棟内に設置しました。 

また、平成25年1月から毎週月曜日の午前にリンパ浮腫専門外来を開設し、患者さんの診察を行なっています。最近の癌の治療の進歩により、今までは助けることのできなかった多くの患者さんが命を救われている反面、命は助かったものの、リンパ浮腫による手足のむくみに悩まされている患者さんが増えてきているのが現状です。 

多くの患者さんは、リンパ浮腫は治らないものとあきらめていると思われますが、現在では複合的治療やリンパ管静脈吻合術の発達により、改善できる可能性や進行を防ぐことができるようになっています。このためには、治療を行なう医療スタッフだけではなく、患者さん自身の治そうという努力や意志も重要です。当院では、このようにリンパ浮腫の治療に対してハード、ソフト面ともに充実しており、リンパ浮腫に悩む患者さんの手助けになれるようにスタッフ一丸となって努力しております。