腕神経叢損傷の治療成績

治療例

2014年12月までに110例のDFMT法を行っています(他にも筋肉移植は全部で401筋肉移植の経験が あります)。

110例の内、手術後2年以上経過し、診察できた症例88例のうち、69例に手指運動の回復が 獲得できています(78%)。 肘屈曲は88例全員に獲得できています。

その内の2人の患者さんをご紹介します。

①,16歳、女性

右上肢の腕神経叢損傷全型麻痺の患者様で、DFMT法の手術後約3年の状態です。 肘屈曲も正常と同じくらい回復しています。 女性ですから外観が気になりますが、見た目には腕神経叢麻痺とは全くわかりません。


指屈伸も良好に回復しています。

術後の回復の様子は、こちらから【動画】

②,24歳、男性

外転

3年前に右腕神経叢損傷全型麻痺のため、DFMT法の手術を受けられた患者様です。
右肩は40度程度まで挙げることができます。 特に日常生活で必要な肩の回旋も回復しています。

内旋、外旋

強い肘屈曲を獲得しています。

 

指の屈伸も自分の思いどおりできます。 物を引っ掛けて持ち上げる、専門的には「フックグリップ」というグリップのみを目的に再建していますので指の可動域は大きくありませんが、強いグッリプが回復できています。

 

後の回復の様子は、こちらから【動画】

右手で10kgのダンベルを持ち上げることができます。

ここにご紹介した患者様は最も良好な回復をした一部の例です。

他にも多くの患者様が日常生活に必要な機能を獲得できています。

ただし、すべての患者様が同じような回復をするとは限りません。 手術する外科医が同じでも、患者様の年齢、事故からの日数、リハビリの実施状態、患者様の努力などにより異なります。

 

また、全型麻痺では、まだ限られた機能(肩、肘屈曲、手指の屈伸)しか獲得はできません。 その機能は正常な手とはほど遠いものですが、以前は考えられなかった手指機能の回復が獲得できるようになったことは画期的なことです。 限られた機能の中でも患者様が必要とする両手で物を持ち上げる、いわゆるフックグリップを現在の目標にしています。

 

なぜなら、腕神経叢損傷の患者様は反対の手が正常なので、細かいものをつかむピンチ動作などでは、手術で回復した手は使用しないからです。 手指機能回復までには長期間が必要で、最低1年のリハビリは必要です。 事情により、長期間のリハビリが困難で、手指機能までの回復を期待しない患者様には、肘屈曲と肩機能の再建のみを行います。

これには神経移行術のみか、神経移行術に筋肉移植術を併用する方法があります。その詳細についてはここでは省略します。

上位型麻痺

手指は動くのに肩・肘が麻痺した腕神経叢損傷を上位型麻痺と呼びます。 全型麻痺に比べて治療は比較的容易です。 肩、肘の再建共に神経移行術が代表的な手術方法です。

① 肩機能再建術

損傷を受けてから6ヶ月以内では、副神経という神経を肩甲上神経に移行します。 術後の肩機能は、第5・6神経根損傷か第5・6・7神経根損傷か、また、引き抜き損傷か、断裂かでその成績は異なります。 僧帽筋の運動神経の終末枝を、肩挙上に重要な棘上筋の運動神経:肩甲上神経に移行します。 (参考図: Hentz and Doi,Green's Operative Hand Surgより改変)

② 肘屈曲機能再建

上位型では肘屈曲も麻痺しますので、神経移行術により再建が行われます。 移行する神経は以前は肋間神経が主でしたが、現在では尺骨神経の部分移行が多く行われています。 後者の方が手術侵襲が少なく、成績が安定しているからです。 肋間神経移行術で、第3,4,5肋間神経を筋皮神経に移行します。

 


尺骨神経部分移行術(オバーラン法) 尺骨神経(a)の神経線維束(d)の1本を肘を曲げる上腕二頭筋(c)の運動神経(b)に移行する手術です。


前述しました①副神経・肩甲上神経移行術と ②尺骨神経部分移行術(オバーラン法)により再建を行った患者様をご紹介します。

③ 50歳、男性。

C5,6神経根引き抜き損傷例。 手術前は肩は全く上がらず、肘は全く曲がりませんでした。

副神経・肩甲上神経移行、部分尺骨神経・筋皮神経移行術を行ってから1年6ヶ月の状態です。

この上位型麻痺は、損傷を受けた神経根の数と高位レベルにより成績は異なります。

第5,6神経根損傷の場合は、上記のように比較的良く治りますが、第5-第7,8神経根までが損傷されると、回復は悪くなります。
 

損傷を受けたから年月が経過した場合の治療

今までご説明しましたのは、損傷を受けてから比較的早期(6ヶ月程度)の場合の治療法ですが、損傷を受けてから1年以上、何年も経ってからから、あるいは、一度、治療を受けたが満足する回復が得られなかった場合の治療法についてご説明します。

全型麻痺

DFMT法の中の筋肉移植による指屈曲・伸展と肘屈曲は損傷後何年たっていても可能です。
ただし、肩機能がある程度回復していないと、手指機能が獲得できても日常生活では役立たないので、肩が少し動く程度に回復している場合にDFMT法は可能です。
また、以前に肋間神経移行を行い、満足する肘屈曲が回復していない場合でも、筋肉移植により肘屈曲の可能性はあります。 この場合、鎖骨下動脈損傷が無いことが条件になります。 手首で脈が触れない場合には、残念ながら筋肉移植は適応となりません。

上位型麻痺

手指はある程度動くのに、肩・肘の運動機能の回復が充分でない場合は、筋腱移行術、筋肉移植術により充分機能回復は可能です。