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人工股関節手術(THA)

人工股関節の基本的な構造

人工股関節は大腿骨側の金属製ステムと、骨頭・骨盤側の金属製の寛骨臼(かんこつきゅう:カップまたはアセタブラーシェル)との間に、高分子ポリエチレン製のインサートを組み合わせた構造になっています。設置には骨セメント(ポリメチルメタクリレート)を使用することがあります。人工股関節は、機種により固定のコンセプトや骨の切除量が異なるため、長期的な視点から見れば、患者様に最適の機種を適切に設置することが重要です。当センターでは、手術前の関節状態や年齢、体重といった要素を考慮して、人工股関節の機種選定を行っています。

対象となる疾患

変形性股関節症

股関節の軟骨が、磨耗や加齢によってすり減ることで起こります。子供の頃からの先天性股関節脱臼の後遺症や、股関節が浅い寛骨臼形成不全などが原因となることが多いですが、加齢により軟骨が減ってしまうことが原因になることもあります。症状としては、歩行時などに股関節が痛み、股関節の動きが制限されるようになります。

大腿骨頭壊死症

大腿骨の骨頭部分の血流が悪くなり、骨の細胞が死んでしまう(壊死)病気です。他の病気の治療で、ステロイドホルモン剤を大量に服用されている方やアルコールの飲酒量が多い方の発生率が高くなりますが、発症の原因が不明なこともあります。壊死が進行すると、大腿骨の骨頭や股関節が変形し、痛みも強くなります。

その他

関節リウマチなどの関節疾患や、骨折などの外傷後に変形が起こった場合にも、人工股関節の適応になる場合もあります。

手術方法

MIS(最小侵襲手術):傷跡を小さくし、筋肉のダメージを少なくするために、小さい切開で手術を行う方法が一般的になってきました。一般的な人工股関節手術の場合、当センターでの切開の長さは7~10cmです。稀ではありますが、関節の損傷の程度や体型などの条件により、大きめの切開が必要な場合もあります。当センターでは、あくまで安全性と長期耐用性を最優先事項と考えています。

手術の進入方法

股関節手術には、前方、側方、後方といった、さまざまな進入方法(アプローチ)があります。それぞれの進入法には利点と欠点があり、どの方法が最も優れているかについては未だ議論のあるところです。本邦で最も一般に行われているのは後方アプローチですが、最近は前方アプローチも増加傾向にあります。当センターでは、前方アプローチと後方アプローチを行っています。手術の前に、患者さんの股関節の状態、骨盤の傾き、肥満の有無や身長などから、安全性と安定性、長期成績を総合的に評価します。その上で、術者の好みではなく、患者さんにあわせた適なアプローチを決めるのが当センターの方針です。
手術例1
手術例2

人工股関節の有効性

人工関節に置き換えることにより、大多数の場合、痛みはほとんどなくなります。変形のために悪くなっていた関節の動きはほとんどの場合改善しますが、その程度は手術前の動きの状態や、術後のリハビリテーションの進行程度に個人差があります。足の長さの左右差の改善も期待できます。痛みのために二次的に引き起こされていた腰痛や膝痛が改善する可能性がされます。

人工股関節手術の限界

人工股関節は永久に使えるものではなく、長い間に骨との間の固定が緩んでしまうことがあります。また人工股関節の部品が少しずつすり減ることにより、ゆるみの原因になることもわかっています。人工股関節手術の寿命は近年延長しており、術後20年経っても使用できる確率が90%前後の報告が多くなっています。しかし、患者さん個々の条件(関節の状態、体重、環境、理解度など)により個人差が大きいのが現状です。緩みや破損が起こった場合には、できるだけ早期の再手術が必要になります。
また、まれではありますが、手術時の骨折や神経・血管損傷、手術後の感染や脱臼、血栓・塞栓症といった合併症が起こる危険性もあります。合併症が起これば、再手術が必要になったり、生命に危険が及んだりする場合も考えられます。したがって、手術前の全身状態の精査や、体調の管理、手術後の慎重な管理が重要です。

手術後の経過

合併症がなければ、手術の翌日からトイレ歩行やリハビリテーションを開始します。数日以内に積極的な歩行訓練を開始し、股関節の動きを良くする訓練や筋力増強訓練を進めていきます。階段歩行や床からの立ち上がりが安定して行えるようになれば、退院します。年齢や手術前の歩行状態にもよりますが、手術後約3週間を目安にしています。

人工股関節の手術後に気を付けること

普通の日常生活を送っていただいて問題ありません。スポーツ活動は、リクリエーションレベルであれば多くの場合、復帰が可能です。ただ、フルマラソンやジャンプを繰り返すスポーツ、コンタクトスポーツは、長期成績への影響が懸念されており、推奨されていません。
特にご高齢の方では、椅子、洋式トイレ、ベッドによる、いわゆる洋式の生活をお勧めしています。人工股関節の問題点について家族の方々にも理解していただき、協力してもらうことも大切です。
非常に稀ではありますが、手術後時間が経ってから人工関節に感染が起こることがあります。汚染したキズや、虫歯や足白癬症(水虫)は早期に治療するように努めましょう。風邪をこじらせたりして重度の感染症になった場合にも、人工関節に感染が波及することがあります。体調の管理には十分気を付けましょう。

小郡第一総合病院 人工関節センター長 藤井 裕之
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